桃雪 白夜の気まぐれブログ

我は厨二病女子、想像神Mなり!

カーマシティ

その街の住人は、愛を持たぬものであった
外の世界の人間達を、あらゆる人外生物から守るため、戦う事が生き甲斐なのだ
そんな中、希に愛を知る子供が産まれる事がある
しかし、その子は、周りからは蔑まれ、避けられるような存在なのだ

戦う事が生き甲斐だから、そこに愛など必要無いのだ


〜カーマシティ〜


この街で育った少年トリスタン・ヒュアードは、幼少よりこの街の住人の心理に疑問を抱いていた
戦う事だけしか脳がない住人達に
そしてもうひとつ疑問があった
昔から、周りに除け者扱いされている少女の存在だった
大人達は、「あの子は悪魔の申し子なんだ」だとか、「あの子はこの世にいらない存在なんだ」とか、そう子供達に聞かせていた
周りの子供達も、少女を見かける度に石やゴミを投げ付けたり、罵声を浴びせたりしていた
トリスタン自身は、そんな事は間違っていると思っていたものの、少女を助けたりすれば、たちまち大人達に捕まり、地下牢に閉じ込められるとか、街から永久追放されるとか、酷い仕打ちを受けるのだという事を知っていた
その為、自分はあの子に興味が無いふりをしていたのだ


ある日、トリスタンは思い切って、純粋な疑問として、母親に投げかけた
「母さん。あの子は悪魔の申し子だなんて言うけど、その理由を詳しくは教えてくれないの?」
すると、トリスタンの母親は、無表情で答えた
「マーシャ・ホロシロフはね、愛を知る子供なの。だけど、私達に愛なんて必要無いでしょう?そんな面倒なものを持ち込まれたら、この街の力が働かなくなるの。だから、ああいう子は、もうすぐ街から出て行ってもらわなくてはならないのよ」
「いつ追い出すの」
「あの子の二十歳の誕生日によ」
「あそう…」
理由はわかったが、トリスタンには、愛が理解できなかった
愛とは、一体なんなのか…

ひとりで散歩に出掛けた時、偶然マーシャを見付けてしまった
彼女は、いつものように、そのブロンドの髪を小さく結って、退屈そうな顔で笑っていた
そして、道端の花に水をかけていた
花に水なんかかける必要性があるのだろうか、と、トリスタンは首をかしげた
誰もいない事を確認して、思い切って、聞いてみたのだ
「花に水かけて何してんだ?」
すると、マーシャは心底驚いたような顔をしたけれど、すぐにいつもの表情になり、答えた
「お花にとっては水がゴハンだから。ここの土は養分を沢山含むいい土だけれど、乾燥しがちなの。だから、毎日水をあげてるの」
「そんな事してなんになるんだ?」
「お花が喜ぶ」
「花に感情なんかあるか」
「私にはわかるの、お花の気持ちが」
「…」
トリスタンには、それが彼女の持ち合わせている『愛』なのか、と考えていた
けれど、よくわからなかった


マーシャは今日は街灯の上に座って歌を歌っていた
いつも歌っているのは戦わない歌
そんなマーシャを戦うやつらは笑っていた
街灯の上で彼女のスカートを風が撫でていく
彼女のお気に入りの場所のようだった
「またあいつ歌を歌ってるぜ」
「ほっとけ。あれは只の馬鹿だよ。『愛している』だなんて言っちゃってさ」
そう言って街の子供達はスルーしていく
彼女は諦めるように歌っている
トリスタンは一瞬だけ顔を見た

「そっか。あいつ、諦めるように泣いてんだ」

マーシャの頬に涙が光っていた


いつしかトリスタンにはマーシャが可哀想に思えてきた
思い出せなくなってしまう前に「遊びに行こうぜ」って言ってやろう
そう考えていた

ある朝、街が大騒ぎをしていて、トリスタンは目が覚めた
「父さん母さん、何事なの!」
「消えたんだ…」
「消えた?」

「マーシャ・ホロシロフが失踪したのよ…」

トリスタンは一瞬止まった
そして家を飛び出した

街中探しても何処にも居ない
消えちゃった…
「遊びに行こうぜ」ってついには言えないまんま、あの子は消えていったんだ…

…あれ?なんで俺はあんなやつを探しているんだ?

唐突に疑問が頭をよぎる
そして、トリスタンは涙を流した

この感情は生まれ持っていたんだ
俺にもあった感情なんだ

これが『愛』なんだ

今更気付いた頃には、彼女は何処にも居ない

街の端まで来た時、封筒を見付けた
『私に話し掛けてくれた帽子の男の子へ』
そう書かれていた
迷わず封を開け、中の紙の文字を読む

「初めて私に話し掛けてくれたのが嬉しかったです。私は街の外で人間として暮らします。ありがとう。」

トリスタンは、声をあげて泣いた

そして、小さく、「大好き」と呟いた



ここは一瞬を繋いで作った
過去と未来の、僅かな隙間
カーマシティ
君はほら街を外れて、消えていく


ーThe endー



原曲:米津玄師「KARMA CITY」