桃雪 白夜の気まぐれブログ

我は厨二病女子、想像神Mなり!

恋と病熱

何もかも嫌いになりたくなかった
だから何もかも嫌いでいた

ものでも、ことでも、ひとでも

嫌いたくなかった

だからひたすら嫌いでいた

なのに…


〜恋と病熱〜


生まれつき不治の病に侵されていた少年、オク・ダヨンは、幼少より暗い顔をしていた
そんな彼が唯一笑うのは、幼馴染みのマーシャと遊んでいる時だった
マーシャはいつもダヨンの体調を気にかけ、「疲れた?」とか、「お腹すいた?」とか、優しく声掛けをしていた
毎日ダヨンの家へ行き、母親や自分が作ったお菓子や、庭の花を持っていき、床に入りっぱなしのダヨンを元気付けたり、外へ連れ出して一緒に遊んだりしていた

ダヨンにとって、数少ない至福の時間だった

時が経ち、ふたりは学校へ通うような歳になった
体調は割と優れてきたダヨンも、例外無く学校へ通った
クラスメイトと同じような遊びはできなかったものの、みんなダヨンに良くしてくれた
ダヨンは幸せだった

しかし、人間は嫌でも成長をするもの
ダヨンも、肉体も精神も大人に近付きつつあった

ダヨンにとって「好き」な事が少なくなり、「嫌い」な事が沢山増えた
教室の窓から、外を歩き回るみんなの背中を見ていた
「みんなはいいよな」
そんな事を呟いていた
本当はみんなに言いたいことだったが言えなかった
言いたくても言えない事が増えた
空は濁り、夜になろうとするばかりである

マーシャが女友達と話をしながら教室に入ってきたのがみえた
話の内容はぼうっと聞いているだけだったが、「何処にも行けない私をどうする?」というマーシャの言葉だけが明確に聞こえた

マーシャはお家にいいなずけを決められそうなのだ

昔からやんちゃばかりしていたが、実は彼女はお嬢様なのだ
それでも自分に優しくしてくれていた事が、ダヨンにとってこの上ない幸福だったのだ

自分も家に帰ろう
そう思い立ち上がった
途端に視界が暗転した
「…ン…ダヨン!大丈夫!?」
マーシャの声で気を取り戻した
眩暈を起こして倒れたのだった
「あ…マーシャ、ありがと…」
「大丈夫?今日は一緒に帰ろうか」
「うん」
こんなに優しい女の子にいいなずけができるなんて…
そんな現実から逃げるように白昼夢に全て押し込んだ
現実が空っぽになるまで、空想に詰め込んだ

帰り道、学校の授業について話をしていた
「じゃあ、goの過去形は?」
「え、えっと…」
「もー!今日やったとこだよー!」
「俺英語嫌いなんだよー…」
「『嫌い』って言わない、『苦手』って言いなさい」
「ふえぇ…」
ダヨンは勉強が苦手だった
それでも覚えたことは沢山増えた
「そういえばさ、あそこに枝のいっぱいある木が見えるでしょ?」
不意にマーシャが切り出す
「うん」
「あんた昔あれに登ろうとして、枝が折れて落っこちたよね(笑)」
「はぇ!?そんな事あったっけ!?」
「何よぉ、忘れちゃったの?」
「覚えてねぇよ…」
「もー…」
忘れたことも、沢山増えたのだ

バス停にバスが来て、2人はいつものように乗り込む
ダヨンがあまり歩けないので、近いけれど、バスを使ってるのだ
バスに揺られながらダヨンは夕日を見ていた
すると、マーシャがケータイのカメラで写真を撮った
「何撮ってんの?」
「今日の夕日が綺麗だから…」
「あぁ!俺も夕日見てたの」
「あ、やっぱり?綺麗だよね…」
「うん…」
そうこうしているうちに降りる場所まで着いた
「おいお二人さん、ここで降りるんだろ?」
いつものバスの運転手さんが2人に呼びかける
「へっ?わ!すみません!ありがとうございます!」
「あぁ!マーシャ待って!」
慌てて降りていく2人に、運転手さんは笑顔で手を振った

バスが去っていった途端、マーシャがクスクスと笑い出した
「何どうしたの?」
「いや、私達、似てるよねって。フフっ」
「あはは、そうだね!」
ダヨンは嬉しかった
すると、マーシャは笑いながら、ダヨンにこう聞いた
「ねぇ。ダヨンって、好きな人できた?」
ダヨンは戸惑った
「い、いや、まだだよ」
「あはは、そっか。私もまだなの」
ダヨンは嘘を付いてしまったのだ

ダヨンは、マーシャが好きだったのだ
故に、悲しかったのだ

ふいにダヨンの服のボタンが千切れた
すかさずマーシャがそれを拾い、言った
「付けてあげるからおうちあがらせて」
「えっ、あ、ありがとう!」
「いいえー」
マーシャはいつものように笑う
それでダヨンはさっきの悲しみを押し殺し、マーシャと一緒に家に入った


部屋でマーシャにボタンを付けてもらっている間に、ダヨンは切り出した
「将来のお婿さん、決まった?」
「まだよ。お父さん達も酷いよ?決めるならさっさと決めてほしいのに」
「あはは、そうだね」
「あ〜あ、私が普通のおうちに生まれてたらなぁ…」
「そう言うなよー…」
ダヨンは思い切った
「俺、さ。マーシャがいないと駄目みたい」
「んー?そうなの?」
「うん…」
「なんで?」

「マーシャがいないと、色んなことが、色んな風に、嫌いになっちゃうよ」

マーシャは驚いた顔を向けた
そして静かに微笑んだ
「…そっか。そう思ってくれて嬉しいな」
そして、いつの間にかボタンを付け終わった服を差し出した
「ほいっ」
「おっありが…」
言いかけて、ダヨンはむせた
「大丈夫?」
マーシャが背中をさすると、ダヨンは血を吐いた
「!?ダヨン!しっかり!今お母さん呼んでくる!」
マーシャは慌てて部屋の外へ出て行った
ダヨンの視界が暗転した


ダヨンが目覚めると病院だった
呼吸がしんどく、体を動かすのも辛い
しかし、自分の横には手を握ってくれていたマーシャが居た
彼女は泣いていた
「ダヨン…起きた?」
「まー…しゃ…」
ダヨンは安心と喜びから笑顔になった
「良かった…」
マーシャも微笑んだ

それから毎日マーシャはダヨンのところへ来た
そして遅くまで一緒にいてくれた
ダヨンが夜眠るまで
「マーシャ…辛くない…?」
「大丈夫よ。へーきへーき」
マーシャは笑っていたが、少し痩せたのがダヨンにはわかった
しかし、ダヨンの方が日に日に弱っていくのが自分でもわかっていた

マーシャは今日もダヨンが眠ったのを確認して、病室を出た
すると、お医者様と廊下ですれ違った
「今晩は」
「今晩はマーシャさん。いつもありがとう」
「いえいえ。あの…ダヨン君は、元気になりますか?」
マーシャはお医者様に訪ねた
しかし、お医者様は無言で悲しい顔をした
マーシャはそれを見て察した
「もうすぐ、お別れって事ですか?」
「そうなるね…お別れはダヨン君の側にいてあげてくれ」
「勿論ですよ」
「ありがとう。さぁ、今日ももう遅いから帰りなさい」
「はい…」
マーシャはうつむきながら家へ帰っていった

マーシャがいつものようにダヨンの病室へ入ると、お医者様とダヨンの両親が居た
「まさか…」
マーシャはダヨンのベッドに駆け込んだ
「ダヨン!ダヨン!」
すると、虚ろな目をマーシャに向け、ダヨンがこの時を待っていたとばかりに口を開いた
「まーしゃ…ぼくの…こと…やさしく…して…くれて…うれしかった…」
「当たり前じゃない…幼なじみだもん…」
マーシャは思わず涙を流した
「ぼく…きょうまで…まーしゃと…いれて…しあわせだったよ…まーしゃ…ありがとう…」
「ダヨン…私ね…実はダヨンの事…」

「大好きだったの」

ダヨンは静かに涙を流した

「まーしゃ…」

そして、最後に小さく、「大好き」と言った



病熱を孕ませ夢を見ていた
盲いた目にみえた落ちていく陽
愛していたいこと、愛されたいこと
望んで生きることを、許してほしい


ーThe endー



原曲:米津玄師「恋と病熱」